(4)衝撃の所払い。異世界を知る

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 今日は入庁2日目。これから福祉の現場で働くんだなくらいの感覚しかありません。先輩から今日は「所払い(しょばらい)」ということだけは聞いています。しかし、この日をもって今後数年間自分の置かれることになる立場・仕事を知ることになります。

<緊張感の漂う所払い準備>

 入庁二日目。8時30分の始業ベルが鳴ると一斉に業務が始まります。しかし、何だか昨日と少し空気が違う。電話はガンガンなるし、職員間にも微妙な緊張感が漂っている。しばらくすると、民間会社の警備員が銀色のトランクを届けに来ました。そして、経理担当と思われる職員が一斉に茶封筒にお金を入れ始めました。「すごい金額だな~、何のお金だろう」と思いながら、暇そうに見てると、隣の先輩から「〇〇君、”せいほ”について教えるよ」と言われました。「せいほ?生命保険のことですか?」と聞き返す私。すかさず「生活保護の略だよ」と先輩が答え、辞典のような厚みのある生活保護手帳をパラパラと開き、生活保護の法的な位置づけについて教えてくれました。

 この時点では「高校で少し勉強した憲法で保障されている最低限度の生活保障ってやつか」くらいの認識で、生活保護費支給に関する仕事をやるということが少しずつ理解できてきました。

 先ほど見せてもらった生活保護手帳をパラパラ見ていると、先輩がニヤニヤしながら10時頃に「○○君、1階の会場に人いるか見てきてくれる?」と指示を受け、見に行くと‥、何やら年配の男女20名弱が会場外の地べたに座ったり、煙草をふかして何かを待っているようでした。「多分生活保護受給者だろうけど、一体何をやってるんだろう?」。疑問を残しながら午前の業務が終わりました。

<生涯忘れない所払いの現場>

 「じゃあ行こうか」と先輩に連れられて先程の会場へ行きました。ここが所払いの会場だったのですね。そして、会場のドアを開くと衝撃の映像が飛んできました。

 約200㎡の会場に100名を超える、(全員ではありませんが)薄汚れた格好をした人たちが会場内に並べられた椅子にスタンバイしていました。会場外には入りきれない人が、数多くいました。事務方と生活保護受給者の間は、ロープで仕切られ、会計担当の人が先ほど準備していたお金の入った封筒の入った木箱の前に座っています。

 ようやくこのタイミングで、ここはこの人達に生活保護費を手渡す場所で、今日は支給日なんだということに気づきました。「これが所払い(しょばらい)か!」。そして、午前中に見た人達は、お金の支給が待ちきれず、朝から来ていたということか

 事務方のケースワーカーは20名くらいです。職員が「〇〇さん、いますか~」というと、印鑑を預かり、経理スタッフに持っていきます。名簿に押印すると職員が茶封筒を受け取り、印鑑と一緒に生活保護受給者(以後:「ケース」。由来は分かりませんが、皆そう呼んでいました)。お金を渡すと職員はケースと5分程度会話をし、ノートに記録をとっていました。

 この様子を見ているうちに、お金の支給を口実に事務所に来させて、状況を確認しているんだろうなということが見えてきました。

 私は先輩の後ろについて、仕事の様子をじっと見ていました。先輩は堂々としていて、15人くらいのケースとの保護費支給・現状確認を手際よくこなしていました。会話の最後に「地区担当が変わりまして、後任の〇〇です」と私を紹介してくれました。そうです、大学上がりピカピカの社会人1年生の私(経営学科卒業)が、今後いきなりこれらケースと熾烈なやり取りをすることになるんです。

 所払い会場のドアを開けた瞬間の衝撃的な映像(と異臭)の記憶と、今後自分がこの人たちの担当者になるのかという巨大な不安を抱えてこの日は帰路につきました。

 

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