観光案内所設立プロジェクト~公務員なのにこんな仕事するの?~

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その8「電鉄の思惑」

 行政が運営する観光案内所の基本的な位置づけとしては、利益を追求するものではない。あくまで基本となるのは、お客様の問い合わせにきちんと答えることである。物販を行ったり、ちょっとしたイベントを開催することはあっても、これは集客のための手段であって、案内所開設の目的ではない。

 電鉄サイドのスタンスは180°異なっていた。案内業務などは二の次で、「集客こそが命である」との考えしかない。そのために案内所の目玉となる事業を掲げることを強く要求してきた。特に外国人旅行客を集客するために、「和」の文化を体験できる場所にして欲しいと要求してきた。

 大きなお世話である。完全に目的と手段が混同している。オーナーとしては集客してもらわないと困るという気持ちは分かるが、ここは公的な施設である。懇切丁寧で、多言語に対応できること。それができる人材が必要であると説明したが、まるで納得しない。終いには、案内は適当でいいから和体験をとにかく考えてくれと言う。

 ちなみに、案内所が開設してからの話しだが、電鉄側の当初の思惑とは別に、当案内所は外国人旅行客の拠点として、機能することになった。外国人が電鉄職員に切符の種類を英語で訪ねてきても、「あそこの案内所に聞いてくれ」と言う始末だから皮肉なものである。それは本来彼らの仕事だろう。その仕事を代替しているのだからお金をもらいたいくらいである。

 とは言え、オーナーの意向は無視できない。電鉄が都内で着付けやお茶など、外国人向けに日本文化体験を実施している民間会社を見つけ、一緒にヒアリングに行こうと提案してきた。当日、電鉄関係者3名と係長・私の計5名で視察に行くことになった。

 その会社は都内の小さなビルの1フロアを賃貸していた。フロアには3つの部屋があり、それぞれの部屋で着付けやお茶などの体験が簡単にできるようになっていた。その日はお客さんがいなかったが、動画で文化体験の様子を見せてくれた。

 正直動画身を見ても、心がまるで踊らなかった。都心の古ビルの一角で着付けやお茶をやっても、まるでストーリー性が感じないのである。うまく言えないが、何かが違うのである。我々が海外に行って、商業ビルでご当地の文化体験をしたいと思うだろうか。彼らに任せれば、文化体験施設としての形はできるだろうが、案内所業務の根幹は理解しえないだろう。

 私のほうからは絶対に言うまいと思っていたが、電鉄サイドから、相手方に「あなた達は、観光案内所を運営し、その中で文化体験ができるのか」と口を漏らしてしまった。それを聞いた瞬間彼らは目の色を変えて、色々と質問してきた。

 そりゃそうだろう。案内所の運営費に加え、賃料がかからず、自分たちの文化体験事業ができる拠点を確保できるわけだから。私と係長は、正直いまいちだなと感じていたが、電鉄サイドは「まさにこれだよ」といった顔つきであった。私は内心「この会社には絶対に任せられない」と心に決めた

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